障害者差別解消法 兵庫2015

障害者差別解消法の手引
兵庫県・兵庫県社会福祉事業団

平成28年4月スタート 障害者差別解消法を知っていますか。
障害者差別解消法とは、「障害を理由とした差別」を解消するための法律です。

 障害を理由とする差別を解消し、障害のある人の人権や基本的自由の享有を確保することを通じ、障害のある人が社会に参加し、よりよく生きることを進める「障害者権利条約」が、平成26年に批准されました。平成28年4月からは、「障害者差別解消法」が施行されます。
 この法律は、障害を理由とする不当な差別的な取扱いを禁止しています。また、障害のある人から何らかの配慮を求める意思の表明があった場合に、負担になり過ぎない範囲で、日常生活や社会生活を送る上でのバリア(障壁)を取り除くため、合理的な配慮を行わねばならないとされています。
 私たちの街にはさまざまな人が暮らしています。障害のある人も無い人も、大人も子どもも、男性も女性も、外国の人もいます。みんな違いはありますが、同じように学んだり、働いたり、暮らす権利を持っています。障害者差別解消法は、障害の有無によって分け隔てられることなく、誰もがお互いの個性と人格を尊重し、支え合う社会をつくるために定められた法律です。この法律をきちんと理解し、誰もが暮らしやすい社会をつくる責務が、みなさん一人ひとりに求められるのです。

1 差別解消法とはどんな法律なの
この法律の目的
 国や市町などの行政機関、会社、お店など民間事業者が、「障害を理由とする不当な差別」をしないことをもとめた(決めた)法律です。
 障害のある人も無い人も、互いに個性と人格を認め尊重する社会をつくることが目的です。
民間事業者とは
 一般的な企業やお店、個人事業者のほか、無報酬の事業や非営利事業を行う、社会福祉法人や特定非営利活動法人も含まれます。

対象となる障害のある人とは
 障害者基本法に定めているすべての障害のある人です。身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、そのほか心身機能の障害がある人など、障害や社会的障壁によって日常生活や社会生活が、継続的に困難になっている人です。障害者手帳を持っていない人も含みます。

この法律のミソ
 障害のある人に対する「不当な差別的取扱い」と、「合理的配慮の不提供」を禁止しています。

2 障害を理由とした不当な差別とは
不当な差別的取扱い
 正当な理由もなく、障害があるということでサービスなどの提供を拒否したり、制限したり、障害のない人にはない条件をつけたりすることが、障害を理由とした不当な差別になります。
合理的配慮の不提供
障害のある人から、何らかの配慮を求める意思の表明があるのに、社会的障壁を取り除くための、合理的な配慮をしないことを言います。
なお、本人が配慮を求める意思の表明ができない時は、家族、介助者、支援者などが補佐し、意思の表明をすることもできます。

「不当な差別的取扱い」、「合理的配慮の不提供」の具体例
 飲食店などで:車いすで(盲導犬を連れて)レストランや飲食店に入ろうとしたら断られた。
 入会窓口などで:スポーツクラブやカルチャーセンターに入会を申し込んだ。障害があることを伝えたら、そのことを理由に入会を断られた。
 住宅案内所などで:マンションやアパートを借りようと申し込んだ。障害があることを伝えたら、そのことを理由に貸してもらえなかった。
 駅などで:駅でどの電車に乗れば目的地に行けるか尋ねたが、わかりやすく説明してもらえなかった。
 避難じょなどで:災害時の緊急案内が音声でしか提供されなかったので、どうすればよいのかわからなかった。
 会議などで:会議や報告会で、わかりやすく説明してくれる人の配置をお願いしたが、用意してもらえなかった。

3 「社会的障壁」とはどのようなもの
 社会における事物:通行、利用しにくい施設、設備など
 制度:利用しにくい制度など
 慣行:障害のある人の存在を意識していない慣習や文化など
 観念:障害のある人への偏見など
 障害のある人にとって日常生活や社会生活上で障壁となるものには、「合理的配慮」が求められます。

社会的障壁の具体例
 ホームページ:画像が多く、読み上げソフトが機能しない。
 書類:難しい文章や漢字ばかりで、理解しづらい。
 段差:段差があり進めない。
 「合理的配慮」とはどのようなもの
 代替手段等を用いて情報提供を行う:聴覚障害のある人には筆談など音声以外の方法で伝える。・視覚障害のある人に書類を読み上げながら説明する。
 段差:交通機関などで、駅員や係員が乗車を手助けする。

4 差別とならない場合
正当な理由がある場合
 正当な理由があって、障害のある人とない人に違う対応をした場合は差別になりません。
 しかし、正当な理由は、安全の確保、財産の保全、事務や事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止など、個々の状況に応じて総合的に判断する必要があります。正当な理由があると判断した場合は、その理由を説明し、理解を得るように努めなければいけません。
過重な負担がかかる場合
 障害のある人の社会的障壁を取り除くための合理的な配慮を提供するにあたり、負担が過重となる場合は、差別にはなりません。しかし、過重な負担かどうかは、個々の状況に応じて総合的に判断する必要があります。過重な負担と判断した場合は、その理由を説明し、理解を得るように努めなければいけません。

過重な負担と判断するときの要素
・事務・事業への影響の程度(事務や事業の目的・内容・機能の維持)
・実現困難度(人的・体制上の制約、物理的・技術的制約)
・費用や負担の程度
・事務・事業規模
・財政・財務状況

意思の表明がない場合
 障害のある人(家族、介助者、支援者など)から、社会的障壁を取り除いて欲しいという意思の表明が無い場合は、合理的配慮が行われなくても、差別にはなりません。
 しかし、その場合であっても、適切な配慮を提案するなど、自主的な配慮に努めることが望まれています。
優遇する場合
 状況に応じて、障害のある人を優遇する対応は法的差別となりません。
 障害のある人とない人の、事実上の平等を促進し、達成するために必要な措置となります。

5 障害者差別解消法で守らなければならないこと
機関:国の行政機関・地方公共団体など
 不当な差別的取扱:禁止 不当な差別的取扱いは禁止です。
 合理的な配慮の提供:法定義務 障害のある人に対して合理的な配慮を行わねばなりません。
 機関:民間事業者など 民間事業者には、個人事業者やNPOなどの非営利事業者も含まれます。
 不当な差別的取扱い:禁止 不当な差別的取扱いは禁止です。
 合理的な配慮の提供:努力義務 障害のある人に対して合理的な配慮を行なうよう努めねばなりません。

もう少し詳しい障害者差別解消法 質問と回答
 質問:行政機関などは「合理的配慮」を「法的義務」とし、民間事業者は「努力義務」としているのはどうして
 回答:合理的配慮は行政活動のほか、医療、教育、公共交通など幅広い分野が対象です。そこでは、多種多様な配慮が求められるので、行政機関などは率先して取り組むように法的義務としています。民間事業者などは、国が定める各分野の方針に基づく努力義務として、自主的な取り組みを促しています。
 質問:民間事業者などが、合理的配慮の努力義務を守らない場合は
 回答:同じ民間事業者などが、繰り返し障害のある人の権利や利益の侵害になるような差別をして、自主的な改善も期待できないときは、その事業分野の主務大臣が、報告を求めたり、行政措置(助言、指導、勧告)を、おこなったりします。
 質問:個人的な人間関係においても、この法律に違反したら罰せられますか
 回答:障害者差別解消法は、行政機関や民間事業者などを対象としています。一般の人が個人的な関係のもとで、障害のある人と接するような場合は対象としていません。また、個人の思想や言論も対象としていません。しかし、すべての人が障害のある人への理解を深めることは、共生社会をつくるうえで、非常に大切なことです。
 質問:この法律のスタートはいつ
 回答:平成28年4月1日です。それまでの間に、「国の基本方針」などに基づいて、行政機関などを対象とした「対応要領」が作られます。また、各分野の民間事業者などを対象とした「対応指針」も作られ、すべての人に法律の趣旨や内容を理解してもらえるように、積極的な広報活動がおこなわれます。

障害者ほっとらいん 弁護士による専門相談
 平成27年4月より、障害のある人の相談窓口である「障害者ほっとライン」(障害者110番)で、毎月第4水曜日に、弁護士による専門相談を実施します。 (事前予約制)

こんな相談を受け付けています
法律的な観点からアドバイスが求められるものを対象とします。
・差別や虐待、権利侵害等、障害者の人権に関する相談
・財産管理や成年後見に関する相談
・悪徳商法や消費者被害に関する相談 等
ご相談の方法
 相談実施日のぜんぜんじつ15時までに、以下の予約受付電話・ファックスまで連絡し、事前予約をおこなってください(おかけ間違えのないようにご注意ください)。
 予約受付電話番号:0 7 8 - 2 6 2 - 1 2 3 5( 受付時間10時から16時、土日祝日・年末年始を除く ) 
 ファックス:0 7 8 - 2 3 0 - 9 5 5 3
 ファックスでの相談を希望される場合は、「弁護士ファックス相談希望」と書き、氏名・連絡先・相談内容をお送りください。
 詳しくは兵庫県ホームページをご覧ください
 http://web.pref.hyogo.lg.jp/kf08/tcs.html

付録
平成26年12月5日に開催した、平成26年度 兵庫県 障害者差別解消法施行準備推進事業 「障害者差別を考えるセミナー」の講演概要を掲載します。
講師紹介:講演1 野村やすよ 氏
プロフィール
 東京都生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科修了(人間科学博士)精神保健福祉士、社会福祉士、専門社会調査士。現在、大阪市立大学大学院 生活科学研究科准教授。専門は合意形成論、地域福祉、居住福祉。現在はイタリアをフィールドに調査をおこないながら、障害者・地域住民・専門職との協働によるまちづくりについて研究を進めている。著作に、『精神障害者施設におけるコンフリクトマネジメントの手法と実践 −地域住民との合意形成に向けて−』 (明石書店2013年)、『キーワードと22の事例で学ぶソーシャルワーカーの仕事』(とおつかたにふみこ・とよたしほ・野村やすよ編著、こうよう書房2013年)などがある。
 参考:大阪市立大学大学院 生活科学研究科・生活科学部
 ホームページ:http://www.life.osaka-cu.ac.jp/index.html

講演2 広野ゆい 氏
プロフィール
 兵庫県在住。青山学院大学 文学部卒業。2級ファイナンシャルプランニング技能士。28歳でうつ病、30歳のとき発達障害と診断される。2002年に、大人の発達障害のグループ「関西ほっとサロン」、2008年4月に、「発達障害をもつ大人の会」を立ち上げる。現在は大阪府若者サポートステーションでピアワークサポーターとして就労相談等、当事者立場でのキャリアカウンセリングをはじめ、企業や特別支援教育機関向けの講演等をおこなっている。また、『発達デコボコ活用マニュアル』の作成や『発達デコボコ100人会議』の開催等、発達障害の特性理解を広げる活動も進めている。
 参考:NPO法人 発達障害をもつ大人の会
 ホームページ:http://www.adhd-west.net/index.php

講演1 野村やすよ 氏
地域であたりまえに暮らすことを再考する −「ともに生きる」まちづくりのために−
 大学在学中にボランティアで精神障害者の施設に関わった経験が契機となり、卒業後は精神保健福祉士として勤務していた。勤務先の法人がグループホームをつくることになったとき、それまで親しくしていた住民が建設への反対運動を始めた。なぜ反対するのかわからないまま、感情のぶつかりあいで事態は収束せず、結局グループホームはつくれなかった。
 昨年春、西日本のとあるまちのビル3階に精神障害者のグループホームをつくる計画が持ち上がった。2階には大手学習塾が入っていて、「グループホームが入ることで塾生が減ったらどうしてくれるのか」と激しい反対にあった。東日本でも昨年、発達障害者のグループホームをつくる計画があったが、地域住民からの反対によりいまだ建設に至っていない。このように、残念ながら施設コンフリクトは現在でも各地で発生している大きな問題である。
 そもそも「コンフリクト」とは、ミクロレベルでは個人の葛藤から始まり、マクロレベルでは戦争に至るまで用いられる概念であり、対立、紛争、摩擦などあらゆる現象を含む概念であるため、あえて日本語に訳さずに使用する。また、これまで「施設コンフリクト」の明確な定義はなかった。ここでは、争い、摩擦等が表出しており、両者がそれを知覚している状態のことであるとする。2000年から2010年までの施設コンフリクトの全国発生率について、全国精神障害者地域生活支援協議会(通称あみ)の協力のもと調査したところ、全体の1割で発生していることがわかった。その発生要因はさまざまであるが、差別・偏見が要因の一つであることは確かであり、「地価が下がる」「リスクが生じる」といった、1980年代から変わることのない反対理由が確認された。また、まずは本音を言わずに施設ができることを、「聞いている、聞いてない」等の手続き論から入ることも多くみられる。一般的に施設コンフリクトは発生しないほうが良いものと考えられることが多いが、例えば、あまり得意ではないと思っていた相手と大げんかした後に上手い具合に和解できたときは、のちのち関係せいがうまく行くことがある。これは施設と地域住民にも見られる現象であり、合意形成の仕方によっては施設と地域住民、地域住民と利用者の関係が良くなり、表面上の解決よりも両者にとってプラスになることがある。
 一方、欧米では早くからコンフリクトは両者の関係をプラスに導く良い機会であると認識されてきた。ここで、施設コンフリクト発生後に長い時間をかけて両者の信頼を構築し、その信頼は一つの事故では簡単に崩壊しなかったという事例を紹介する。これは施設コンフリクトが大々的に発生した事例であり、施設建設予定地に、わら人形が打ち込まれたり、白いスプレーで壁に誹謗中傷の言葉が書かれたりしたが、信頼を醸成することにより3年後に施設建設に至った事例である。地域イベントへの参加、町内活動などを続けるうちに、双方共に相手に対して 「信頼できない」から 「もしかしたら信頼できるかもしれない」、そして「信頼できる」に変化した。そのような中、施設の利用者が隣の住民にケガをさせる事故が起こるのだが、当初大々的に反対していた住民数名が「今回のことは不運な事故である。施設がここにいられなくならないように、地域がもめないようにするにはどうしたら良いか」と市役所に相談にいっていたことがわかった。障害者と呼ばれる人も地域住民として信頼された事例である。
 また、イタリアの事例についても紹介したい。イタリア北部の山沿いに人口約11万人のトレントというまちがある。イタリアでは1998年に単科の精神科病院が廃止され、現在、トレントには総合病院の中に精神科病床が5から6床あるのみである。トレントでは、毎朝8時30分から、まちの福祉医療の専門職や行政職等と住民(必ずしも民生委員等ではない)30名ほどが会議を開き、地域のメンタル面での不調しゃのリストから、支援が必要な状態の人に関する情報を共有する。「担当は誰か」ではなく、今だれだれさんにとって最も適切だと考えられる人が支援に入る。住民がその役目を担うこともある。また、日本にはない専門職(ウッフェ)も毎朝の会議に参加する。ウッフェは障害のある当事者かその家族で構成される。ウッフェになるための条件は、当事者としての経験があること、その知識や経験を活用できること、ウッフェという専門職に興味があること、他者とのコミュニケーションの取りかたを把握していることであり、最も重要な条件は、自分の調子が悪いときの対処法を理解していることである。ウッフェのメリットは同じ立場の人のモデルになれることなどさまざまあるが、一番のメリットは市民への啓発であり、市役所や保健センターなどに配置されることにより、市民はウッフェを障害者として捉えるのではなく、専門職として接する。すると市民は地域に暮らす障害者に対しても同じような見方とつきあいかたをする。イタリアでは、精神科病院を廃止したことをきっかけに、地域支援をどう作るかについて何年もかけて取り組んだ結果、現在のシステムができ上がったのである。
 このような取り組みは日本で活かせるのだろうか。まず、日本では住む場所ありきの福祉を展開してきた結果、地域住民として生活することへの支援が手薄である。建築学者の早川和男氏は、今から17年前に「居住福祉」という概念を提唱した。人が生活する上でまず整備が必要なものは住まいである。当然、住み続けるための支援も必要になる。専門職は、住民同士で支え合う地域を作るための支援を行わなければならない。個を支える地域を作ることは福祉の大きな役割である。人が社会で生きる以上、コンフリクトが発生するのは当然である。その対立に蓋をするのではなく、いかにプラスの解決を図るかが重要である。またその際には、すべての人がそこに生きる権利があることを忘れてはならない。差別解消法をただの法律と捉えず、地域づくりの手段として活用できるものと捉えたい。一人でも多くの人にしんの意味での障害者理解をしていただき、ともにまちづくりができたらと願う。

講演2 広野ゆい 氏
働く障害者への「合理的配慮」について考える −発達障害当事者からのメッセージ−
 発達障害当事者で、不注意優勢型の注意欠陥たどう性障害の診断あり。20才前後で、自分が人と違うことに気づくが就職する。しじされたことが出来ない、解ることと解らないことの差が大きいなどを、説明できずうつ状態になり受診し服薬した。社会不安障害、対人恐怖で引きこもったこともある。うつの治療から始まり、ADHDと診断を受け、自分で全国各地の自助グループに参加し、2002年に「関西ほっとサロン」を立ち上げた。この間いろいろな障害のリーダーと交流し、障害があっても受け入れて、自分の出来ることをやっている人が輝いて見えた。結構高いハードルだが、そういう人に私はなりたい、今ある自分を受け入れて輝きたいと思った。障害受容が出来るのに5年かかった。
 発達障害は、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥たどう性障害、学習障害に分けられ、人口比1.5パーセント(100人に1人)とも言われるが、専門家によると10パーセント(10人に1人)との見方もあり、本当は珍しくない障害と言える。
 発達障害のある人は、常にストレスレベルが高い状態で生活しており、特性にあった支援や理解を得られずに大人になった場合、二次障害や依存症を発症してしまうことがある。学生時代は問題を抱えながらもスルーしてしまえるが、会社ではそうはいかず、特性が限度を超えてしまうと問題行動として出てくる。とても疲れやすいこと、味覚・触覚・嗅覚等に過敏であること、時間の目安をつけることが難しいことなどが理解されず、「気持ちの問題」 「やる気がない」 「いい加減」 「無視している」などと思われがちだが、このような特性を知ることで、会社側は合理的配慮が可能になると思われる。
 理解のポイントとして、発達障害は心身の機能上の能力障害ではなく、ディスオーダー (社会的障害)であることだ。出来ると思われても出来ないときがあること、本人は出来ないことを隠してしまうなど、わかりにくさや関わりづらさが社会生活上の「障害」となる。「何でも出来ます、頑張ります」の人が一番危険で、「この仕事は難しいけれど、こうすれば出来ます」と本人が言えれば、仕事が出来るかどうかの基準になる。
 関係者は「アスペルガーだから、発達障害だから」と決めつけず、同じ診断名でも、一人ひとり苦手なところや感覚や思考回路は違うので、個別支援が必要である。同じ失敗の繰り返しを怒っても、多分治らない。
 「何故か」を一緒に話しあえる環境があって、方法や環境を分析して、上手くいくための状況をつくることが大切である。
 では、具体的にどう関わったらいいのか 「そういう言い方をされると傷つくんですよ」 と言える関係なら多少は大丈夫という例を挙げてみよう。
・「普通に見えますよ」 普通に見られることがちょっと怖い。
・「それぐらい普通にあるよ」 「出来ない」と言いづらくなる。
・「出来ないじゃなくて、やらないんでしょ」 すぐに判断することが難しい。
・「頑張れば克服出来ますよ」 既に限界の状態の時は難しい。
・「何が出来ないのか解らないよ」 「この人はわかってくれないな」 と思う。
・「大学出てるんだから大丈夫でしょ」 表面的なことで決めつけないで。
 一方 当事者自身には、自立するための自己選択や自己決定が非常に大事で、対等な立場からの支えとして、セルフヘルプグループを設立した。
ここでは、
 障害観を変える:障害があっても、すべて社会的な不利につながるとは限らず、環境次第で障害にならないこともある。特に発達障害と言われている人の中には、業績を残した研究者や有名人が多数いる。障害は社会や環境がつくると考えれば、自分を責めずに済む。
 社会資源の活用方法:専門家も社会資源の一つとして、どのように利用(支援してもらう)するかなど、自分達で決めることが必要で、障害があっても出来ることは多い。「出来ない」「させない」ではなく、何にでも挑戦し、体験の中から社会的・専門的スキルを身につけていくことが重要である。
 援助者治療原則:助ける者がより助けられるという原則。人を助けることで、自分も元気になっていける。グループのリーダーが元気になる姿を多く見てきた。
 ありのままでいても良い場所:社会の中で自分はどういう存在なのか、どのように見られているのか、説明してもらっても理解出来ない。しかし、セルフヘルプグループでは、グループ内の人間関係から、「こんな風に見られているのかな」と想定出来る。だが、若年層に偏ったり、モデルがすくなかったり、二次障害の精神疾患が強い場合の効果は期待うすである。

 発達障害をもつことや精神障害の発症では、自尊心が低くなり、否定されて生きている感覚が非常にある。
 グループ内では、安心や失敗を繰り返し、じょじょに自尊心が回復し、最終的には自己受容(出来ない自分も受け入れられる)が出来る。グループ内が安全な場所であれば、段階的に適切な自己像を獲得し、社会適応へと繋がる。今の状況で、自分の生き方を自分で選択すること。これが自立だと考える。近年、診断の出来る医師が増えて、これまで一般枠で働いてきた人達が、障害者枠で就職するケースが増えた。しかし、どこから「発達障害」なのかは難しく、「適応障害」が認められると「発達障害」と診断されることも多い。50代、60代になってから診断を受けようとする人も増えた。会社から勧められて受診し、発達障害と診断される人もいる。いずれにしろ、「ほっとした」、「納得した」と答えられるが、反面、普通には戻れないというショックは大きい。障害者に対する差別や雇用の問題を考える上で、手帳の有無で、配慮するしないの区別は意味がない。「合理的配慮」というが、現状は障害特性に合わせた物理的環境整備をしているに過ぎない。障害に関わりなく、いろいろな課題を抱えた人にも配慮すること、みんなが働き易い環境をつくることで、能力を発揮し、生き生きと暮らすことが可能になる。

質疑応答
質問1:今回の講演は企業のどの立場の人に深く知ってもらいたい内容だったのか。企業のトップか、現場か、全従業員か。
回答:広野 管理職が障害者のことを知らないと雇用上の支障はあると思うが、現状で相談が多いのは現場の人からである。その相談を拾い上げるシステムや、上司等、会社のトップに理解がないと、何に困っているのかを把握することが難しい。障害特性について深く知ってほしいということになると、現場で一緒に働く仲間ということになる。すべての場所で、こういう人たちが普通にはたらける状況になるには、まず、企業のトップが基本的な知識を持って、偏見や、知らないばかりに排除することがないようにする必要がある。

質問2:講演の中で出てきた大阪の福祉事業所では、どのように地域との交流をおこなっているか成功例を教えてほしい。
回答:野村 大阪市立大学の生協と関わって学生食堂をしているという範囲での関係であるため、大学内での活動に限定して答えると、普段の学生食堂の運営では、来られた客(学生等)に利用者が、全面的に接客等対応している。はじめのうちはスタッフが利用者にしっかりついて、特性に関する誤解がないように対応をしている。

質問3:発達障害かも と感じた時、周囲はどうアプローチしたら良いのか。一次障害が発達障害とわからずに、二次障害として精神疾患を発症し、福祉サービスを利用している人もいる。
回答:広野 特性が原因で支障が出ている時に、「あなたはこれがだめだから発達障害だ」というのは、最も悪い伝えかただと思う。どうすれば、その人はその失敗をしなくなるかという対応をまずやってみる。障害めいではなく、そういう「タイプ」なのでは、という特性で表現する。次の段階で、相手に余裕がある時に発達障害かもしれないと伝える。また、「あなたはどうすれば良いか」を考えた上で、話をすることも重要である。その人の段階に寄り添いながら環境をつくっていく必要がある。私は、生まれてこのかた発達障害だが、精神障害の人の場合は、障害になる前の自分の状態を知っている。「戻りたい」という気持ちと戦うことがテーマになると思う。その人の気持ちに丁寧に寄り添って、一緒に支えていくことが必要と思う。

質問4:今日の講演の中で、大事なポイントとして聞いたのが、「施設コンフリクト」である。数年前に大阪のある街で、精神障害者の地域拠点をつくる時に商店街をあげて反対運動があった。反対運動の先頭に立っていたのが、本来、障害のある人の側に立つべき社会福祉協議会の事務局の人だった。「時間をかけて」というのは良くわかるが、いつまで時間をかければ良いのか、内閣府で障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針をつくっているが、その中で、「グループホーム等を含む、障害者関連施設の認可等に際して、周辺住民の同意を求める必要がない」となっている。行政機関としては、その上で、周辺住民に理解を得るために積極的な啓発活動を行うことが望ましいとされている。それらを含めて、どこが妥協点なのかをお聞かせ願いたい。
回答:野村 通常、コンフリクトが発生して、合意形成に至るまで、その間には、コンフリクトマネジメント手法が用いられる。今日の講演では話ができなかったが、それらの手法を用いて、施設と地域との間で合意形成に至るまでは、約1年半から2年の期間が平均としてかかっている。ただし、それが良いのか悪いのかという判断は別である。

発行:兵庫県
編著:兵庫県社会福祉事業団 兵庫県立総合リハビリテーションセンター 能力開発部 能力開発課
〒651-2181 神戸市西区曙町1070 電話: 078-927-2727 (代表)
作成:在宅就労者の会 イーワーク
平成27年3月発行